福井大学SPP講座参加までのいきさつ

バスに乗って福井大学に向かう生徒

10月も押し迫ったある日、福井大学の方から、「11月から12月にかけて、プラスチックの成形加工に関するSPP講座を行うのだが、参加してみませんか」というお誘いを受けました。
このことを生徒に伝えたところ、2年生が今まさに有機化学を学ぼうとしている時期でしたので、さっそく16名の希望者が名乗りを上げてくれました。
ただ残念なことに、部活動の関係もあって4名の生徒が「全ての講座には出られない」と言うことで辞退し、実際に参加したのは12名ということになりました。
当日は敦賀工業高校(2名)、武生工業高校(4名)、啓新高校(3名)も加わっての講座となりました。

開講式 福井大学アドミッションセンター SPP研究代表者 大久保 貢 教授

皆さんこんにちは。
本日は、サイエンス・パートナーシップ・プロジェクトに参加いただき、ありがとうございます。
これから、工学部材料開発工学科の田上秀一講師によります「プラスチック成形加工の基礎」と題した講座を始めたいと思います。
この福井大学の実験施設を利用して、大学で実際に行われているような実験を皆さんに体験してもらい、科学の楽しさに触れてほしいと思います。

基礎講座 福井大学工学部材料開発工学科 田上秀一 講師

本日から三日間、皆さんとプラスチックの成形と加工に関する学習を行いたいと思います。
皆さんもご存知のように、私たちの身の回りには多くのプラスチックが存在しており、次のグラフに示すとおり、販売量も年々増えています。
さて、このプラスチックという言葉ですが、特定できるいくつかの材料の呼び名ではありません。プラスチックは、その用途や使用目的によって、様々な性質を持ったプラスチックが生み出されており、これら一群の材料を総称した呼び名です。
一般にプラスチックは、エチレンとかプロピレンと言った小さな分子を、いくつも連結させることによって作り出されます。そこで材料となる小さな分子のことを「モノマー」と呼び、出来上がったものをたくさんつながったと言う意味を込めて「ポリマー」と呼ぶこともあります。そして、モノマーが重なり合うようにしてポリマーになることから、プラスチックを作る反応のことを「重合」と呼んでいます。
このようして作るプラスチックには、先程述べたように様々な性質を持つものがあり、いろいろな考え方により分類されます。
ここに、代表的なプラスチックを持ってきましたので、手に取ってみてください。

手に取ってみると

回された試料

次に、プラスチックを考える上で重要な二つの視点を紹介したいと思います。
まず第一の視点は、プラスチックを加熱したときの性質についてです。
例えるならば、お菓子の「チョコレート」と「ビスケット」のようなプラスチックがあるということです。つまり、プラスチックは一度加熱し反応させて固めたものですが、再び加熱したとき「チョコレート」のように溶けて柔らかくなりますが、冷やすと固まるような性質を持つプラスチックと、「ビスケット」のように一度固まったものは再度加熱しても溶けないと言う性質を持つプラスチックがあります。
そこで、「チョコレートタイプ」のプラスチックを「熱可塑性樹脂」、「ビスケットタイプ」のプラスチックを「熱硬化性樹脂」と言います。

プラスチック分類表

このことが何に関係するかというと、リサイクルという話につながってくるのです。近年は環境に対する関心が高くなりましたが、その中でプラスチックは、ゴミの減量やリサイクルという話になると必ず登場します。身の回りにたくさんあるプラスチックを使い終わった時どう処理するかと言えば、リサイクルするに越したことはないわけですが、「熱可塑性樹脂」は熱を加えれば柔らかくなり、再び製品にすることが容易にできます。一方、「熱硬化性樹脂」そう簡単にはリサイクルできないという話になるわけです。
ですから、プラスチックだからと言って、混ぜてしまっては大変なことになります。だから、プラスチックの分類表にあるように、細かく分けなくてはいけないのです。
ところで、このリサイクルですが、良いことばかりではありません。
熱を加えれば成形し直せると言っても、何度も熱を加え続けられると性能が劣化しますし、出来上がる製品は石油から作ったときよりも高価なものとなってしまいます。それは、捨てられるプラスチックを集め、処理工場に輸送して粉砕してと言った具合に、多くの手間がかかるからです。実際にリサイクルして採算が合うのは、アルミくらいだとも言われています。

結晶化の違いによる分類

さて次に、第二の視点ですが、それは結晶化という話です。
様々な性質があるプラスチックですが、その中の分子の様子はどうかというと、全ての分子が規則正しく整列しているわけではありません。
規則正しく整列している部分を「結晶化」しているといい、結晶化の割合が高いほど硬く、弾性率強度などが向上し、透明性はなくなります。
透明性があるものの代表としてはCDの材料となるポリカーボネートは有名ですが、透明なペットボトルの材料であるPET(ポリエチレンテレフタレート)は、実は結晶化しやすく本来は不透明なものなのです。それが、どうして透明なのかというと、加工するとき急冷することで結晶化を防いでいるのです。
続いて紹介したいのは、どのようにして様々な性質を持ったプラスチックを作るのかと言うことです。

研究成果

一般にプラスチックは、柔らかくて燃えやすく、電気を通さないと言う性質があります。これに対して、石や金属と言ったものは、硬くて燃えにくく、金属は電気を通します。
もし、プラスチックに石や金属を混ぜ合わせてみたらどうなるでしょうか。プラスチックに混ぜ合わせるものを「フィラー」と言いますが、私たちの研究室では、こうしたフィラーについて何を、どのように、どの程度混ぜてやったらどうなるかという研究もしています。
これが、そうした研究の成果です。
このような改良方法もありますが、一般に目的にあったプラスチックを作ろうとするときに試みる方法には、次の二つがあります。

講義に聴き入る生徒

一つ目は「共重合」です。共重合というのは、異なる性質を持つプラスチックを作る原料となるモノマーを、あらかじめ混ぜて目的とするプラスチックを作ると言う方法です。
これに対して「ポリマーアロイ」と言う方法があります。これは、異なる性質のポリマーを混ぜて作るというものです。
ところで、身近にあるプラスチック製品ですが、どのようにして作られているのでしょうか。
プラスチック製品は、先程お見せしたような粒状の材料から作られます。
この粒状のプラスチックを加熱して流動性を与えることが第一の工程です。金属に比べてプラスチックは、流動性を持つ温度は低いですが、熱を通しにくいという面を持っています。ですから、加熱して流動性を持たせるときには、十分に撹拌する必要があるわけです。

内部温度の測定


この日の午後の実験中、流れ出て固まったプラスチックの内部温度を測定しました。
素手でもさわれるほどになったところ(表面温度は60℃)で、温度計の先端を少し差し込み、内部温度を測ってみると120℃でした。
次に行うことは、形状を作るという第二の工程と固めるという第三の工程がありますが、これらにも、目的とする形状に合わせた様々な方法が取られます。全てをお話しすると時間がかかりますので、本日は第二工程の形状を作る話だけをしておきたいと思います。
形状を作る方法として有名なやり方に「射出成形」と呼ばれる方法があります。これは、注射器のようなもので、目的とする形状の陰影をつけた「金型」と呼ばれるものの中にプラスチックを押し込んで、その形を写し取らせる方法です。
このように、金型と呼ばれるものを使う成形方法には、薄く延ばしたプラスチックを真空の負圧によって金型に吸い付けて行う「真空成形」や、プラスチックに発泡剤を混ぜて体積が増加することによって金型に合わせる「発泡成形」などがあります。

射出成形

真空成形

発泡成形

このような金型に押しつけるようにして成型する方法は、お菓子の作り方で例えるならば「タイ焼きタイプ」と言ったところでしょうか。
これに対して「ところてんタイプ」の成型方法もあり、一般的には「押出成形」と呼ばれています。押出成形では絞り出されるところに金型が使われているのですが、この絞り口の金型のことを「ダイ」と呼びます。このダイの形によって様々な形状が生み出されるのですが、出てきたものを引っ張り延ばすことによって細い糸を作ることもできます。

紡糸

絞り口と成型品

押出成形

こうした押出成形の特徴は、連続成形が可能であると言うことですが、気をつけなければならないことがあります。
それは、水のような「ニュートン流体」と呼ばれるものは、絞り口と同じ太さで流れていくのですが、プラスチックの場合は、流れ出した直後に、それよりも太くなってしまいます。

ダイスウェル

こうした現象を「ダイスウェル」と言いますが、押出成形を行うときには、こうしたプラスチックの性質を考えた絞り口にしておかなくてはならないのです。

粘弾性とは

では、どうしてこのような現象が起こるのでしょうか。
プラスチックのこのような挙動を示すことを説明するためには、「粘弾性」と言うことを理解しなくてはなりません。
一般的な物質に力を加えたとき、粘土のように形が変わる物と、ゴムのように元の形に戻ろうとする物があります。粘土のように、形が変形する性質を「粘性」とか「塑性」と言います。

ダイスウェルの仕組み

一方、ゴムのように元の形に戻ろうとする性質を「弾性」と呼びます。プラスチックの場合は、力のかけ方によって、どちらの性質の表れるので、このような性質を「粘弾性」と呼びます。
先程の現象は、絞り口から出るまでは比較的ゆっくりとした力のかかり方であるので、粘性体の振る舞いをします。
ところが、絞り口から出ると一気に力が解放されるので、弾性体のように元の形に戻るような振る舞いをして、絞り口より太くなると言うわけです。

プラスチックの粘性と弾性

←内部温度を測定したプラスチックの固まりを床にたたきつけてみると、スーパーボールのように跳ね返ってきました。
二日目の実習で同じ材料の試験片を引っ張ったところ、3倍以上も伸びました。→
さて、プラスチックに関する説明はこれ位にして、今説明したことに関する実験を始めたいと思います。皆さんそれぞれの班に分かれて実験を開始しましょう。

実験実習 グループA

プラスチックのリサイクル回数と製品強度との関係

実験目的
低密度ポリエチレン(LDPE)を用いたプラスチックの成形加工を体験する。
また、できあがった成型品の引張試験を通し、リサイクル回数と製品物性の関係を調べる。
実験手順
Ⅰ 実験サンプルの作成
①バージンペレットからシート状サンプルAを5枚作成する。
②引張試験用のシート1枚を残し、残りのシートはペレット大に細かく裁断する。
③サンプルAを細かく刻んだものからシート状サンプルR1を3枚作成する。
④引張試験用のシート1枚を残し、残りのシートは再びペレット大に細かく裁断する。
⑤サンプルR1を細かく刻んだものからシート状サンプルR2を1枚作成する。
Ⅱ 引張試験
①それぞれのサンプルについて、サンプル中央部分から上下25㎜のところに目印となる線を引く。
(その両側で固定し、引張試験を行う)
②目印をつけたサンプルを縦方向に幅10㎜の大きさに切り、引張試験用サンプル5枚をつくる。
引張試験用サンプルの両端には、それぞれサンプル番号を書く。
③それぞれの引張試験用サンプルの幅と厚さを、ノギスを用いて5点測定する。
④引張試験用のサンプルを引張試験機にセットし、プロッターの調整を行った後、引張速度100㎜/minで引張試験を行う。
⑤引張試験中の引張試験用サンプルの変形の様子や破断した後の破断面の形状を観察する。
(測定が終わったサンプルは捨てない)
実験考察
①引張試験のチャート紙から応力-ひずみ曲線を作成する。
②応力-ひずみ曲線から、次に示す力学特性値を求める。
・初期弾性率
・降伏点応力および降伏点ひずみ
・破断点応力および破断点ひずみ
③各サンプルの力学特性値および外観や破断面の観察結果からリサイクルによる影響を考察する。
3日目は、データ整理を行い、成果発表会に向けたまとめを行いました。

実験実習 グループB

プラスチックの種類、成形温度と製品強度との関係

実験目的
材料として低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)を用い、180℃と220℃でプラスチックの成形加工を体験する。また、できあがった成型品の引張試験を通し、プラスチックの種類や成形温度と製品物性の関係を調べる。
実験手順
Ⅰ 実験サンプルの作成
①成形温度を180℃として、それぞれの材料からシート状サンプルAを作成する。
②成形温度を220℃として、それぞれの材料からシート状サンプルBを作成する。
Ⅱ 引張試験
①それぞれのサンプルについて、サンプル中央部分から上下25㎜のところに目印となる線を引く。
(その両側で固定し、引張試験を行う)
②目印をつけたサンプルを縦方向に幅10㎜の大きさに切り、引張試験用サンプル5枚をつくる。
引張試験用サンプルの両端には、それぞれサンプル番号を書く。
③それぞれの引張試験用サンプルの幅と厚さを、ノギスを用いて5点測定する。
④引張試験用のサンプルを引張試験機にセットし、プロッターの調整を行った後、引張速度100㎜/minで引張試験を行う。
⑤引張試験中の引張試験用サンプルの変形の様子や破断した後の破断面の形状を観察する。
(測定が終わったサンプルは捨てない)
実験考察
①引張試験のチャート紙から応力-ひずみ曲線を作成する。
②応力-ひずみ曲線から、次に示す力学特性値を求める。
・初期弾性率
・降伏点応力および降伏点ひずみ
・破断点応力および破断点ひずみ
③各サンプルの力学特性値および外観や破断面の観察結果から材料の違いと成形温度による影響を考察する
3日目は、データ整理を行い、成果発表会に向けたまとめを行いました。

実験実習 グループC

二種類のプラスチックの混合比と製品強度との関係

実験目的
ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)を所定の混合比で混合した材料を用い、プラスチックの成形加工を体験する。
また、できあがった成型品の引張試験を通し、プラスチックの混合比と製品物性の関係を調べる。
実験手順
Ⅰ 実験サンプルの作成
①ポリプロピレン(PP)とポリスチレン(PS)を用い、所定の混合比のプラスチック混合物500gを用意する。
(射出成形を行うので、サンプル作成に200g、樹脂替えに100g使うから)
②所定の混合比で混合したプラスチック混合物を、手動射出成形機を用いてJIS規格に定められたダンベル型の試験片を10枚作成する。
できあがった試験片

PS

PS/PP

PP

Ⅱ 引張試験
①試験片の両端に番号を書いた後、ノギスを用いて幅と厚さを測定する。
②引張試験用のサンプルを引張試験機にセットした後、引張速度10㎜/minで引張試験を行う。
③引張試験中の引張試験用サンプルの変形の様子や破断した後の破断面の形状を観察する。
(測定が終わったサンプルは捨てない)

PP

PS

実験考察
①引張試験のチャート紙から応力-ひずみ曲線を作成する。
②応力-ひずみ曲線から、次に示す力学特性値を求める。
・初期弾性率
・降伏点応力および降伏点ひずみ
・破断点応力および破断点ひずみ
③各試験片の力学特性値および外観や破断面の観察結果からプラスチックの混合比と製品物性の関係を考察する。
3日目は、講義室に場所を移してデータ整理を行い、成果発表会に向けたまとめを行いました。

発表の要点を聞く生徒

発表に使う写真の確認

実験実習 グループD

プラスチックの種類と溶融体の流動現象との関係

実験目的
材料として低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)を用い、フローメータに投入して流動現象を観察する。

実験に使用するダイ
(中央に直径2㎜の穴が開いている)

実験手順
①溶融温度を設定し、材料を投入する。
②重りを所定の位置に据えて、フローメータを作動させる。
③所定の時間後に棒状のサンプルがフローメータから出てくる。
④棒状のサンプルが冷えて固まったら、フローメータから取り外し、形状を計測する。
⑤据える重りをかえて①~④の操作を行う。
⑥材料を変えて①~⑤の操作を行う。
実験考察
①フローメータを作動させるとデータシートが得られ、その中にある剪断速度から流量を計算する。
②棒状サンプルの直径を測定し、スウェル比を求める。
③流量とスウェル比の関係をグラフに描き、材料の種類とスウェル比の関係を考察する。
3日目は、講義室に場所を移してデータ整理を行い、成果発表会に向けたまとめを行いました。

今回行った実習のまとめとして、それぞれの班でプレゼンテーションを行いました。

グループA

プラスチックのリサイクル回数と製品強度との関係

グループB

プラスチックの種類、成形温度と製品強度との関係

グループC

二種類のプラスチックの混合比と製品強度との関係

グループD

プラスチックの種類と溶融体の流動現象との関係

閉講式

皆さん、3日間にわたる講座はどうでしたか。
今回皆さんに行っていただいた実験は、どれも大学で行うような内容でした。
途中、実験機械の不具合などもあって、実験計画通りに物事が進みませんでしたが、皆さんの頑張りで、何とか発表にまで漕ぎ着けることができました。
今回の取り組みでは、将来大学に進学したときに、どのようなことをするのかを皆さんに体験してもらうことを目的にしていました。
図らずも発生した実験機械のトラブルは、この講義を始めるときに話した「実験の予定を立てるときは、計画の2倍の時間を用意しろ」と言うことを証明し、そうした状況での臨機応変な対応の仕方を体験できたのではないでしょうか。
大学では、高校までのように分かり切ったことを確かめるばかりではなく、全く想像もつかないようなことにチャレンジして、そこに潜む何かを見つけ出そうとする試みをします。こうした場面で、今回学んだことは忘れているかもしれませんが、今回体験した記憶は何かの形で役に立つと思います。
この講習会に集まってくださった方は、高校2年生の人が多いと聞いています。再来年の4月に、この大学で再会できることを期待して閉講としたいと思います。
十分な事前準備もなく参加した講習会でしたが、生徒の感想からもわかるとおり、大変有意義な時間を持てたようです。
こうした成果を上げることができましたのは、福井大学の関係者の方をはじめ、多くの方々のお力添えをいただいた結果であると思います。
この場を借りて、深く感謝申し上げます。