6月18日(水)に本校大会議室を会場に、生態学の世界的権威であり、総合学習「ふるさと敦賀塾」の活動場所となっている中池見湿地にも何度か足を運ばれている、京都大学名誉教授の河野昭一先生をお迎えして、スペシャルセミナーを開催しました。
先生は、大きな国際会議の準備を担当されており、お忙しい最中であるにもかかわらず、本日来校予定であったアメリカ・スミソニアン博物館からのお客様デニスFウィッガム(DENNIS F. WHIGHAM)博士のピンチヒッターとして、わざわざお越し頂きました。
1時過ぎ、この講演会開催の仲介の労を執っていただいたNPO法人ウェットランド中池見の笹木さんご夫妻と共に来校された河野先生は、校長室に立ち寄られました。
校長室にて (左より、菊崎校長、河野先生、笹木さんご夫妻、山内教頭)
コンピュータ調整中の先生
本校における自然環境教育への取り組みなどについて説明をさせていただくと、「大変興味深い取り組みをしている。少しでもその取り組みの後押しができるように、今日は話をしたい。」と、抱負を述べられて会場に向かわれました。
会場となる大会議室に移動された先生は、早速機材のセッティングなど、講演の準備をされました。
取材陣に取り囲まれ取材を受けられる河野先生
開演時間が迫り、生徒達の入場が始まった頃には、この講演会を取材しようと新聞4紙とRCNの記者の方々もお見えになり、その場におられた河野先生を囲んでの取材が始まりました。

開講式

緊張の面持ちで司会をする生徒
皆さん。静かにしてください。
これから、平成20年度総合学習「ふるさと敦賀塾」中池見の自然を楽しもうスペシャルセミナーを開講します。
まず、本日講師としてお越しいただいた河野昭一先生をご紹介します。先生は、京都大学名誉教授という肩書きをお持ちです。この肩書きの裏には、たくさんのすばらしい業績が隠されています。その業績の中で、目に見える物を一つ紹介します。 それは、京都大学博物館をつくられたということです。当然、博物館の初代館長としても活躍されました。 また、河野先生はアメリカ植物学会の名誉会員という称号もお持ちです。これには、どのような意味があるかというと、「日本の生態学は河野先生に聞け」と、アメリカ、いや世界の人が認めたということだと思います。
歓迎の言葉を述べる生徒
今日は、このように立派な先生のお話を聞くチャンスを得たのです。
ところで、今日のセミナーにはアメリカのスミソニアン博物館からのお客様、ウィッガム博士も、お見えいただく予定でした。ところが、アメリカ国内の飛行機トラブルのため、今日の夕方の来日となってしまいました。大変残念で仕方ありません。 しかし、ウィッガム先生は来日を前に、河野先生へ「このような話で良いか」とレポートを預けられたそうです。そこで、今日のセミナーでは、ウィッガム先生から託された内容も含めて、お話しいただけることになりました。 今日、ここにおられるのは河野先生お一人ですが、今日お見えになれなかったウィッガム先生のお気持ちも感じながら、河野先生のお話に耳を傾けたいと思います。

京都大学名誉教授 河野昭一先生

皆さん、こんにちは。
時間がも限られていますので、早速話を始めたいと思いますが、皆さんに用意した今日のお話しは、大学生レベルの話ですから覚悟して聞いてくださいね。
それでは、まず最初にこちらの写真を見比べてみてください。 どちらも秋の紅葉の写真で、非常によく似た風景に見えますね。 でも、左の写真は日本の中禅寺湖付近の写真で、右側の写真はアメリカの東海岸にあるグレートモスキーという場所の写真なのです。
皆さんは、これが当たり前のことだと感じますか。 実はこれ、大変不思議なことなのです。 このことに気がついたのは、チャールズ・ライトという人物が日本で植物を採取し、その標本を見たハーバード大学のエイサ・グレイ教授でした。 その標本がそれで、「ロマンゾク岬」で採取したと書かれています。 では、いつ日本に来日したかというと、実は皆さんもよく知っているはずです。 それは、幕末の頃で「黒船来航」と騒がれたペリー提督率いる艦隊の、乗組員の一人として来ていたのです。
そのことは、当時のアメリカ北太平洋艦隊の記録に詳しく載っており、歴史の教科書では、伊豆の下田に来たことだけが書かれていますが、その後、北海道の函館に向かい、それから日本海に出て北上し、稚内あたりまで足を伸ばして調査していたことが分かります。
さて、その後の調査で、大陸の東側に当たる日本と、アメリカの東海岸には共通する数多くの種類の植物が生息し、それ以外の場所では生育が確認できない植物であることが突き止められました。
そして、その原因が氷河期にあることも分かってきました。 ここで言いたいことは、日本とアメリカの東海岸には、氷河期の生き残りと考えられる貴重な植物相と生態系が残されていると言うことです。
大陸東側の植物の
類似性の発見者
類似性がある植物の一覧表
大陸東側の植物の
類似性を示す図
類似性をしめすハリブキ(左)と
ミズバショウ(右)
さて、話の焦点を日本に絞りましょう。
日本の生態系が特別なものであることは説明しましたが、気候も非常に特徴的なものです。特に、冬になると多くの雪が降る福井県を含めた日本海沿岸の気候は、大変、興味深いと言えます。
こうした気候の要素は、植物の生態や分布にどのような影響を与えるのでしょうか。
これを見てください。
これは、ブナの葉の大きさを調べた結果です。この図を見れば一目瞭然ですが、北に生育するものの葉は大きく、南に行くほど小さくなっています。
これは、ブナだけの傾向ではなく、例えばマイヅルソウなどでも同じ様な傾向を観察することができます。さらに、積雪地帯に分布する植物のの葉の方が大きくなる傾向も見て取れます。
一見すると植物はジッとしていて動かない生き物ですが、よく観察してみると、ダイナミックな生活をしていることが分かるのです。私たちは、こうした調査をずっと続けています。
この写真は奥只見のブナ林で、そこで調査している様子です。
調査の時には丸太が一本だけの吊り橋を歩くこともあります。
それも非常に高い吊り橋なので、高所恐怖症の人は一歩も歩けなくなるような橋なのです。
幸い私はどんなところも平気なので、こうして調査できますが、皆さんはどうですか。
ここで、どのような調査を行っているかというと、ブナの木の葉を採取して、それをすりつぶし、電気泳動装置にかけて、そこに含まれる酵素タンパク質の種類を調べています。
これで何が分かるかというと、森を構成している木の親仔関係が見えてくるのです。これが、その結果をまとめたものです。
ブナは、種子が落ちた場所によって、その運命が決まると言って過言ではありません。
運良く、老木が倒れてできた光の当たる場所、これをギャップといいますが、そこに落ちた種子より発芽した幼植物が、新しい森を作る担い手の木となって成長するのです。
自然の中で生き延びるというのは、本当に厳しいことなのです。
ところが、今、あちこちで森が分断されつつあります。これは、ブナにとって危うい状況なのです。
なぜ危ういのかというと、森を構成する木々の遺伝構造が偏ってしまうからです。遺伝子多様性がある森では、どのような環境の変化に対しても対応可能ですが、偏った遺伝子の森では、変化に対応できずに死に絶える可能性もあるのです。
大変悲しいことです。
さて、皆さん。次にこのグラフを見てください。
このグラフは、南極の氷床をボーリングし、その氷の中に含まれる二酸化炭素の濃度をはかったものです。
これを見ると、近年になって急激に二酸化炭素の濃度が高くなっていることに気づきませんか。現在、大気中に含まれる二酸化炭素の濃度は、平均で約0.03%(300ppm)だと言われています。
しかし、このような会議室で、こうしてたくさんの人が集まっていると二酸化炭素の濃度は高くなります。
たぶん、いまは0.06%(600ppm)位になっているかもしれません。だから、皆さん眠たくなってきたでしょ。これは、決して私の話が退屈だからだけではないんですね。あくびが出そうになるのは二酸化炭素のせいなんです。
大気中の二酸化炭素は、植物の光合成の動きによって消費され、酸素が放出されているわけです。
然し、今、その木々が危機に直面しています。森の分断だけではなく、酸性度の高い霧の発生によって森が枯れ始めているのです。
これは、紀伊半島にある大台ヶ原の様子です。
一目見るだけで、大変な状況にあるということが分かると思います。
こうした状況は、次に何を引き起こすか分かりますか。
そうですね。温暖化現象です。
でも、温暖化現象というのは、気候がどのようになることだか知っていますか。まず、Aのグラフを見てください。
これは、高いところと低いところが規則正しく、周期的に繰り返されていますよね。それに対して、Bのグラフはバラバラです。
実は、温暖化現象というのは、単に気温が上がると言うことではなく、気候変動の規則性が失われると言うことなのです。
このことは昨日まで訪れていた富山県の立山でも感じる事ができます。それは、最近の降雪パターンが春雪型になっている、ということです。
私たちが行っている農業は、Aのグラフのような規則正しい季節変動に合わせて作業が行われ、そのおかげで多くの収穫を恵として受け取っています。
もし、この周期が崩れてしまったら、田植えの時期になっても雨が降らず、成長の時期には天候不順で十分な日照を得られず、刈り取りの時期には大雨に見舞われて水没する、といった事が起こり、作物が収穫できないと言うことになるのです。
そればかりではありません。
気温が上昇すれば、大陸上の氷河が減少します。その結果として海水面が上昇するでしょう。
もし、海水面が3m上昇したら、バングラディッシュやオランダという国はどうなると思いますか。 それ以上に深刻なのが太平洋に浮かぶツバルという国です。 きれいな珊瑚礁の島ですが、もともと島はつながっていました。 これは、雨が降って水たまりができたのではありません。 海の潮が満ちて水没したのです。 このように、世界各地では深刻な被害が、すでに出始めているのです。
最後に皆さんに伝えたいことがあります。
それは、将来はあなた方自身がしっかりと舵取りしなくてはならないのだと言うことです。
そのためには、まわりの海や森の様子をじっくり見る必要があるということです。
少し大変そうだと思う人もいるかもしれませんが、それ程たいしたことではありません。
例えば、6月のこの時期に森に入って、木々の葉の様子を見てみるのみいいでしょう。
この写真は、決して秋口の森で撮った葉ではありません。全て新緑の季節に写したものです。端の方から枯れているものもあります。真ん中へんから枯れているのは、気孔があるあたりです。これらは全て、先ほど話した酸性度の強い霧(酸性霧)の影響なのです。 こうした事実をしっかりと観察して、これから何をしたらいいか、じっくりと考えてみてください。

閉講式

河野(かわの)先生ありがとうございました。
講演会を終了するに当たり、生徒代表より、お礼の言葉があります。

謝辞を述べる生徒
本日は講演していただき、本当にありがとうございました。
素晴らしいお話を聞けて、たいへん嬉しく思います 。 今日のこの経験を、これからの学習に生かしたいと思います。
本日は大変ありがとうございました。
最後に、今日お見え頂いた先生方に記念品として「越前竹人形」をお渡ししました。
記念品について説明する生徒
記念品を受け取られる河野先生

記念品について

河野先生にお渡ししました記念品は、福井県の伝統工芸品である『越前竹人形』です。
この記念品は、『越前竹人形』作りの草分けであり、第一人者でもある師田黎明先生のお口添えも頂き、中池見湿地の情景をイメージした虫籠を、「越前竹人形の里」の職人の方に、特別に作っていただいた作品です。
竹で作られた昔ながらの虫籠の中には、これも竹で作られたカマキリと鈴虫、そして、中池見湿地で発見されたナカイケミヒメテントウをイメージしたテントウムシ(写真右奥の赤い虫)がいます。
冒頭にも紹介しましたとおり、この日は新聞各社から記者の方がお見え頂き、翌朝の新聞に、スペシャルセミナーの様子を紹介する記事が掲載されました。

中日新聞・県民福井

読売新聞

毎日新聞