活動オリエンテーション(小橋宏充学芸員)

「ねんきん」ってどんな漢字?
今回のテーマは「ねんきん」です。
皆さんは先週の土曜日に、今日の観察会のための学習会がありましたから、今日の観察会のテーマである「ねんきん」の漢字を正しく書けると思います。
しかし、皆さんが初めて「ねんきん」と聞いたとき、どのような漢字をイメージしましたか?
私がイメージした「ねんきん」という漢字は、今社会で問題となっている、年の金と書く「年金」です。これは、決して私の年齢がそうだからというわけではなく、世の中の多くの人が思い浮かべるであろう漢字であり、たぶん皆さんも、初めて聞いたときは、そう思ったのではありませんか?
「ねんきん」は「粘菌」です
ところが、今日皆さんに調べてもらう「ねんきん」という漢字は、粘る菌と書いて「粘菌」ですよね。この「粘菌」について、私はあまり知識がないので、参考になる本はないかと市立図書館に行って検索をかけてみたところ、それに該当する本は1冊だけでした。それが誠文堂新光社から出されている、この本です。
そして、さらに驚いたことは、この本の解説を書いておられるのが、本日の講師としてお迎えしている、福井総合植物園プラントピア朝日の主任研究員である松本淳さんだと言うことです。
この本のタイトルにもなっている「粘菌」ですが、正しくは「変形菌」と言った方が良いようですが、松本さんは、高校生の頃から「粘菌」の魅力に引きつけられてこれまで研究を続けられてきたそうです。
一方、皆さんはどうでしょうか。もしかすると、今日が最初で最後の出会いになるかもしれません。そんな風に考えると、現在、大阪国立国際美術館でルーブル美術館展が開催されていますが、そこに展示されている絵画を見るのと同じ価値が、今日「粘菌」を見るということにあるのかもしれません。
また、ルーブル美術館展は、そこに収められている美術品に興味を持った人が、その魅力を伝えようとして行っているものです。今日の催しは、「粘菌」という不思議な生き物に魅力を感じている松本さんが、その魅力を皆さんに伝えようという催しであるとも言えます。
今年のテーマは「伝える」です。今日は、松本さんの「伝えようとする姿」から、「伝える」ために必要なもの、例えば「興味の深さ」といったものを感じてほしいと思います。

「粘菌」を探してみよう  福井総合植物園プラントピア朝日  松本 淳 主任研究員

この図は見たことあるよね
皆さんは、この図を見たことがありますか?
そう、これは生態系の仕組みを表している図ですよね。ここにいる虫をヘビが食べ、そのヘビはキツネに食べられて、さらにキツネはワシやタカに食べられるといった感じで書かれています。良くできた図だとは思いますが、簡単に書きすぎています。
私たちは地上に生活していますから、地上にあるものは良く見えますし、よく観察されています。しかし、私たちの見えないところ、つまり、土の中の様子というのは十分に観察されているかというとそうでもありません。だから、土の中の様子が簡単に書きすぎていると思うのです。
今日皆さんに紹介する「変形菌」いわゆる「粘菌」は、何か特別な存在のように感じるかもしれませんが、そうではありません。私の友人であるイギリスの研究者が世界中の土を採集して、その中に何がいるのかを調べました。その結果、一番多く観察されたのがこれです。
皆さんが行った事前学習で見たと思いますが、「粘菌」です。「粘菌」は特別な存在ではなく、ごく一般的な生き物であり、800種類くらい見つかったそうです。
考えれば当たり前のことかもしれません。例えば、葉が落ちた後、木が枯れた後はどうなるのでしょうか。動物はフンをしたり死んだりしますが、その後はどうなるのでしょうか?
もし「粘菌」たちの働きがなかったら、至るところに枯れ木が倒れ落ち葉が積もり、動物のフンや死がいで覆われてしまうはずです。そうした状況がないということは、いかに「粘菌」たちの働きがすごいかと言うことがわかると思います。
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つまり、「粘菌」は、倒木、落ち葉、枯れ草などに住みつき、これらを腐らせる微生物を食べて生活しており、落ち葉や朽木などを土に返す自然の営みの中に深く関わっています。
「粘菌」の特徴は、生活史の中で、「変形体」というアメーバーのように運動をしながら食物をとる時期と、キノコのような「子実体」を作る時期を繰り返すことです。「変形体」はアメーバーのように動き回り、微生物などの栄養物質を食べて成長して巨大な細胞になります。私が見た最大のものは、1m四方程もありました。こうして充分に成熟した「変形体」は、「子実体」を作る明るく乾燥した場所を求めて移動します。ですから、梅雨が終わる今頃が、移動する「変形体」を観察できる絶好の機会ということになります。
さて「子実体」ですが、その大きさはというと「変形体」からは想像もできないくらい小さく、大きなものでも数㎝程で、だいたいは1~2㎜くらいの大きさしかありません。ですから、今日の観察会にはルーペを用意してもらったのです。ルーペの使い方については、事前学習会で一通り習ったと聞いています。皆さん、落ち葉や枯れ枝をよく見て、「粘菌」を見つけてください。

この日を前に、6月27日(土)に事前学習会を行いました。

春の観察会では、どんな生き物を見ましたか?
そして、それを二つのグループに分けてみましょう。
何を見たっけ?
書き出してみよう
夏の観察会では
「粘菌」を調べます。
ルーペを使いますよ。
日頃見慣れているカレンダーでも、ルーペでのぞくと
アラふしぎ!

前日には松本さんが、中池見湿地を下見されました。


普段は「ふれあいの里」へ向かうために、通り過ぎるだけの「こもれびの道」

「ここはおもしろうそう」とのぞき込む松本さん
手には「変形体」が
子実体
変形体
当初の計画では、「こもれびの道」で「粘菌」を採取して、「ふれあいの里」でじっくり観察する予定でした。しかし、100人ほどが活動するための場所の確保が困難ではないかと言うことで、通常の観察路脇で「粘菌」の採取を試みることに、計画を変更することになりました。

オリエンテーションが終わり、早速観察会スタート。
でも「粘菌」探しをする前に、本物の「粘菌」がどんなものか見ておきましょう。松本さんが見つけておいていただいた「粘菌」を見せてもらいました。
これが「粘菌」か
小さっ!粘菌 見つかるかな?
いつもは、あちこちで立ち止まって、ワイワイ・ガヤガヤと騒がしい園路ですが、この日ばかりはサッサと通り過ぎていきます。
確かに、園路の近くに落ち葉なんかはありませんよね。
とは言っても、「湿地エリア」に一歩足を踏み入れると、気になるものがたくさんありますよね~!
こちらが見つけたのはネジバナのようです。
ヒョロッとしていますが、これもランの仲間だそうです。花をアップで写しておきましょう!!
こちらは何でしょう?
かえったばかりのクモの子
を見つけたようですね
分田あたりに来ると、生徒が立ち止まり田んぼをのぞき込む姿が見られました。
7月の様子
4月の様子
これまでは雑草がおおい茂る場所だったのですが、今年は、NPO法人「中池見ねっと」の皆さんが、生物の多様性保全のために水田化して、かつての水田雑草だった稀少種の復活に取り組んでいます。

私たちも協力しています!!

NPO法人「中池見ねっと」の皆さんが取り組んでおられる、現在は稀少種となってしまった、かつての水田雑草を復活するための水田耕作ですが、私たちも協力しています。
水田の耕起はできませんでしたが、5月23日(土)に行われた田植えに参加させていただいたのです。
「ふれあいの里」で
観察会でもお世話になっている
増田さん(赤シャツの方)の指導
を受けながら、田植えがスタート
なかなか様になってきました。
おいしいお米がとれるといいですね
肝心の「粘菌」をさがしましょう!!
いつもは気味悪がって動きが少ない生徒も、この日ばかりはヤブの中に突進です。
気がつくと、斜面の上まで登り出す生徒が・・・
しばらくすると、同行してくださった松本さんに質問の嵐です。
とうとう座り込んでしまった松本さん。
学校の理科の時間では、生態系のことを「食う・食われる」の関係だって習うよね。
だったら、この葉っぱに生えているキノコなどうなんだろう。
森の学校
この葉っぱから出ているキノコは、落ちた葉に住み着いたわけではないんだ。まだ木の枝についている内に、気孔から入り込んで住み着いているんだよ。
葉っぱについたキノコは、「免疫」というんだけれど、木を病気から守る働きをしているんだ。
「生態系」には、「食う・食われる」だけじゃないいろいろな働きがあるんだ。

ところで、10班はどこいった?

林の中で元気に捜索を続ける生徒。でも、10班の生徒の姿が見えません。どこへ行ったのでしょうか?そう言えば、バケツや網を持って歩いていたような・・・

打ち合わせをしましょう。
それぞれの役割分担が
決まったようです
向かった先は池の方
泥さらいが始まりました。
どんな生き物がいるかな?
次に向かったのは水路。カゴ網を次々と引き上げていきます。
何が捕まっているかな?
記録できたら放しましょう
みんなで記録の確認
10班の今年のテーマは「水の生き物調べ」でした。
そのための活動をしていたのです。

全員集合!!

各班の採取物がこれ
あっちで座り込み、そこでは覗きこみ、こちらではガヤガヤと、少しも予定通りには進みません。
指導員の方が誘う声、同行した教員が急がせる声、聞こえていたのでしょうか?
予定に少し遅れて、いつもの場所に全員が集合。
用意していただいた実体顕微鏡を使って、採取したものの観察会が始まりました。
どんなものがあるかというと
これは何かのフンでしょうか
こちらはカビのようです
これはキノコですね
これが「粘菌」かな?!
実体顕微鏡で観察してみましょう!!
こんな感じで見えました。(指導員の吉田さん撮影)用意していただいていた標本ものぞいてみましょう。

観察が終わって

さあ!時間になりました。皆さん集合してください!!
皆さんには「粘菌」探しに挑戦してもらい、実際にその「粘菌」の姿を見てもらいました。
そこで、皆さんに「粘菌」に触れた感想を聞いてみましょう。 最後に、10班さんに活動報告をしてもらいましょう。
私たち10班は、水の中の生き物探しをしてきました。今日は、アブラボテやドジョウを捕まえることができました。最後に「粘菌」を見ましたが、一つ一つ違うので、見ていておもしろかったです。

「粘菌」を通して見えてくる世界  福井総合植物園プラントピア朝日  松本 淳 主任研究員

今日は、しっかり「粘菌」を探せましたか?
皆さんにとっては、「気持ち悪い場所」であったり、「汚い場所」が「粘菌」の住みかですから、少し抵抗があったのかもしれません。
また、「粘菌」だと思って採取してきたけれど、「粘菌」じゃなかったというのもたくさんあったありました。
今日は、皆さんに「粘菌」を探してほしいと言うことで活動してきましたが、実は「粘菌」を通して、「粘菌」と似たような生き物がたくさんいるということを伝えたかったのです。そして、そうした「粘菌」とその仲間たちの住んでいるところをじっくり見てほしかったのです。
世の中は、目に見える大きなものだけで成り立っているのではなく、目に見えない小さなものの働きに助けられて成り立っています。
また、木が枯れたり、動物が死んだらそれで終わりではなく、その後にもたくさんの話があるということを感じてほしいと思います。そしてこのことは、私たちの生活にも関係する話なのです。それは、「ゴミ問題」であったり、「リサイクル」という話のことです。
これから皆さんが、こうした問題を解決していこうとするとき、きっと今日見た「粘菌」とその仲間たちの働きというものを見直すことで、何らかの糸口が見つかると思います。

夏の観察会のまとめ(小橋学芸員)

皆さん、今日の観察会はいかがでしたか?
今週は昨日まで雨が降ったりして気温もそれ程でしたが、今日は、朝方の雲もとれて、良く晴れ上がって暑い一日になりました。しかし気温以上に、これまでの観察会の中では、一番熱くなった観察会ではなかったかと思います。
その中でも一番熱かったのは、ここにおられる松本さんではなかったでしょうか。松本さんの「粘菌」に対する思い入れ、言い換えれば興味の深さや情熱といったものが皆さんに伝わり、そのことによって今日の観察会も盛り上がったのではないでしょうか。
「伝える」ということは、ただ単に正確な情報や正しい知識を披露するだけではないようです。「伝える」ためには、今日の松本さんのように、興味と熱意を持つということも大切なんだということを体験できた観察会だったように思います。
これから皆さんが、どのような興味と熱意を持ってくれるのかを期待して夏の観察会のまとめとしたいと思います。

最後に、指導員の方に生徒の代表がお礼を述べて観察会を終了しました。

観察会で撮った写真の紹介がまだでした。
今回の撮影は、「粘菌」を探そうと言うことで、採集ボックスやルーペを持参しなくてはいけないと言うことで、NikonのS10とCANONのS5の2台体制で行いました。
とは言え、カメラの撮影総数は、590枚!!力作をご覧下さい。

あっぱれ!

「粘菌」探し、ご苦労様でした。
7月11日に福井総合植物園プラントピア朝日に行って、講師としてきていただいた松本さんに会って、皆さんが写した写真を見てもらいました。
吉田さんの写真
生徒の写真
すると、「これは福井では珍しい種類のヤツだ」といって、写真を指さされました。
それがこれです。(たぶん指導員の吉田さんが撮影されたものもこれだと思います。)この「粘菌」の名前は「シロアシモジホコリ」と言い、福井県で見られるような雑木林には生息せず、南方系の照葉樹林の落ち葉が積もったところで、よく見かける種類だそうです。
皆さんの発見が、また一つ中池見湿地の多様性を示す結果となりました。
危険!要注意!
この写真のヘビを、いくつかの班が撮影していましたね。このヘビが何かわかりますか?
これこそが日本で最も多くヘビの咬傷による被害を出している「マムシ」です。今回は、マムシを驚かせることなく、遠くから撮影できて良かったと思います。
しかし、マムシの持っている毒そのもの毒性は、ハブよりもはるかに強いので、充分な注意が必要です。
もしマムシに咬まれたら、咬まれた時間や状況をしっかり覚えておき、病院で尋ねられたときに説明が出来るようにしておく必要があります。
咬み跡に残る牙の跡は、普通2カ所ですが、場合によっては1~4カ所になることもあります。
もし咬まれてしまったら、まずは、大きな声で近くの人を呼ぶことです。そして、体を激しく動かすと毒のまわりが早くなるので、咬まれたところより心臓側の部分を手やタオルで軽く圧迫して安静にすることが大切です。
連絡を受けた人は、速やかにマムシ抗毒素血清投与などの治療を受けられる医療機関(敦賀市立病院など)に搬送し、6時間以内に血清の投与などの処置をするように手配します。
マムシなどに咬まれた時の応急措置として「口で毒を吸い出す」と言うことが言われていますが、『切開や毒の吸引は絶対に行わないこと』が鉄則です。