開講挨拶

皆さん、今日は本年度最後の講座です。
前半は帝京科学大学の小林先生のお話をうかがい、後半はこの1年間の中池見湿地での活動を振り返ることができればと思います。

講師紹介

小林 毅 教授
帝京科学大学生命環境学部アニマルサイエンス学科
私の専門分野は、環境教育やインタープリテーションです。
環境を保全する活動には、環境がどのような状態にあるか調査研究すること、法律や規制を設けていくこと、自然エネルギーや自然にやさしい開発など新しい技術を開発することなど色々ありますが、環境教育も環境を保全する活動の一つです。環境教育は、「環境と私たちとの関係に気づき、よりよい環境(関係)を保っていくために、自ら問題に気づき、理由を理解し、提案ができ、決断して、行動していける人を育てる教育活動」です。また、インタープリテーションは一般的な意味は「通訳」ですが、自然のメッセージをわかりやすく伝えること、つまり「自然の言葉の通訳」という意味でもあり、環境教育の一つの手法といえます。
私は、野生動物が大好きで、大学時代からニホンザルやニホンカモシカの調査研究をしてきました。そして、野生動物を素材とした環境教育(インタープリテーション)の仕事を、民間の立場で(NPO・NGOといいます)実践してきました。
現在では、環境教育・インタープリテーションについて理論的に体系化する研究を行うとともに、現場で活躍できる指導者を育成する活動を行っています。

【専門分野】
環境教育・野外教育・インタープリテーション・インタープリティブプランニング・エコツーリズム・哺乳類生態(行動)・鳥類生態(行動)・野生動物保護管理・地域計画

この文章は、帝京科学大学のホームページから引用しました。
http://www.ntu.ac.jp/gakubu/seimei/animal/kyoin/kobayashi.html

講演 「見方を変えると見えてくるものがある」

ただいま紹介を受けました小林です。
ここに来るのは4年目ですので、3年生の人とは2回、2年生の人とは去年お会いしていると思うのですが、紹介にあったように昨年までいた岐阜県立森林文化アカデミーから、今年度は帝京科学大学にうつりました。
岐阜県立森林文化アカデミーは美濃市というところにあるのですが、帝京科学大学がどこにあるか知っていますか?
帝京科学大学は、山梨県の上野原というところにある学校です。といっても、君達にはピンと来ないかも知れませんね。関東に住んでいる人間が鳥取県と島根県の位置がどこかあまりわからないように、福井県に住んでいる君達にとって山梨県がどこかとか上野原がどこかというのはあまり関心が湧かないものの一つだと思います。
しかし、帝京科学大学という名前は覚えておいてください。この大学には、自然が大好きだという人、中でも動物が大好きだという人が全国から沢山集まって来ている大学だからです。
君達は、今年も中池見湿地の自然に触れる機会がありました。その中で、自然はすごいなとか、動物っておもしろいなと感じた人がいると思うのですが、そんな興味が高まって大学で本格的に学んでみたいというのであれば、ぜひ来てください。
さて、本題に入りたいと思います。
皆さんは、地球の寿命がどれ位あるか知っていますか?
こんなことはあまり想像したこともありませんよね。
でも、科学者によるとそれは50億年くらいだといわれています。これはほぼ太陽の寿命と同じくらいで、太陽が膨張することによって地球が飲み込まれると考えられています。
しかし、スライドをよく見てください。ここには「人が悪さを止めれば」というただし書きが付いています。これはどういうことかというと、人の活動が活発になったり、科学技術が進んだことによって、地球に想像以上の負担をかけているということです。この負担によって、50億年といわれている地球の寿命を縮めるかも知れないというのです。
ここで憶えておいてほしいことは、自分たちのためだけに今の自然があるわけではないということです。ネイティブアメリカンの人達は前後7世代に思いをはせて生活をするのだといいます。今の私達にはここまで考えることはできないかも知れませんが、少なくとも子どもや孫のために、今ある自然をどうすべきかを考えるべきではないでしょうか。
こうした前提に立って、今直面する環境問題をどのように解決するかというと、四つのアプローチの仕方があります。
一つ目は制度的対策で、法律を作ったり、税金をかけたりといった方法のことです。
二つ目は学術的な対策で、調査や研究を行うことによって、原因を取り除いたり、解決方法を見つけ出したりしようという方法です。
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そして、三つ目は技術的な対策で、省エネ技術や代替えエネルギーの開発などを通して、環境に対する負荷を軽減していこうという方法です。こうしたアプローチに対して、今私が取り組んでいるのは「個人の意志を変えることによって問題の解決が図れないか」という四つめの対策です。具体的には、環境教育であったり、インタープリテーションといわれる方法です。
環境教育やインタープリテーションが目指すのは行動の変革です。この変革のパターにはいくつかの段階があると考えられます。
最初の段階は、何も知らないから行動しないという状況です。こうした状況にある人には、何が問題かとか、何をすればよいのかということを伝えることが肝腎です。こうすることで、やれそうなことは行動にうつことができます。
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次の段階が「わかっちゃいるけど・・・」という段階です。多くの人がこの段階にいると思われますが、自分だけはやるとか、やって当たり前という段階になってもらうにはどうしたらいいか問題です。
この問題の解決を目指して、私達はマーケティング理論を勉強しました。簡単にいうならば、商品を販売するためのコマーシャルはどのように作られているのかということです。
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ここでよくいわれることが、「注意を喚起し、関心を持たせ、欲求が感じるようにし、商品を記憶に止めることで、商品購入という行動に駆り立てる」という流れです。そして、このことばの英語の頭文字をとって、この流れを「AIDMA」というふうに呼んだりします。
こうしたことを参考にして、どこにどのような形で訴えたら効果的かを考えながらインタープリテーションを行っているのです。
さて、こうした訴えかけの効果ですが、非常に良く行動変革を起こす人とそうでない人がいます。
この違いは何かというと「原体験の豊富さ」の違い、わかりやすくいうなら「どれくらい自然と接したことがあるか」という体験の有無が関係しているようです。
そこで、皆さんに「原体験度チェック」というアンケートみたいなことをやってもらいましょう。やり方は簡単で、今からスライドに質問が映し出されますから、経験したことがあるとか、自分に当てはまると思ったら手を挙げてください。
それでは、レベル1から始めましょう。
すごいですね。レベル1だとほとんどの人が全部に手を挙げてくれたみたいです。
じゃあ、レベル2ではどうでしょう。
ほう、手を挙げる人があまり減りませんね。
最後に、レベル3に挑戦してみましょうか。
へえ、ここでも結構手が挙がっていますね。
皆さんは、総合学習で自然に触れる機会を持っていますので、ある程度は手が挙がるとは思っていましたが、予想以上の成果だと思います。そして、このことは自然体験が多いということだけではなく、皆さんが住んでいる福井県という土地柄が自然に触れる機会が多い場所であるということでもあります。このことは、皆さんが誇りに思っていいことだと思います。
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ところで、皆さんは、中池見湿地という場所で自然観察会を行ってきましたが、その活動の中で、「おもしろいな」と感じたものはありませんでしたか?
ここに示したスライドは、中池見湿地のものではありませんが、皆さんもこのような光景を見たことがあるのではないでしょうか。
そう、これは白い木肌の木に細くて黒いツタがからまっている光景です。
そこで質問ですが、このツタは右巻きに巻き付いているのか、左巻きに巻き付いているのか、さてどっちでしょうか?
この答えをいう前に、おもしろい実験をしてみましょう。
皆さんも知っているように、右回りというのは時計の針が進むようなまわり方ですよね。では、頭の上の方に手を伸ばして人差し指を時計回りにまわしてみましょう。
次に、人差し指が動いている面を、そのまま腰のあたりまで下げてみてください。
この時注意してほしいことは、人差し指の先を常に天井の方向に向けたままにするということです。
皆さんどうですか、腰のあたりまで下げた人差し指の動きはどうなっていますか?
そうですね、時計の針とは反対向きに動いていますよね。
同じように人差し指を動かしているのですが、最初は右巻きだったのが左巻きに変わったということです。これが見方を変えるということです。同じ指の動きであっても、上から見るか下から見るかでこんなにも変わってしまうのです。
私達のように環境問題に関わる人は、一般には自然大好きという人の集まりのように思われていると思いますが、実際には自然と触れ合うのは苦手だという人もいます。最初に担当の先生から、中池見湿地の活動に不満を持っている人がいるが、嫌いなら嫌いな理由を考えてほしいという話がありました。それは、まさに見方の問題だと思うのです。
例えば、きれいな模様やデザインを探してみてもよいでしょう。
また、不思議な光景を目にすることだってあると思います。
時には、色に注目して遊んでみるのもいいかもしれません。
さらには、そのままで見るのではなく、何かに見立てるということにチャレンジするのもいいかもしれません。例えば、目玉シールを持っていって、貼り付けてみると今までとは違った光景が目に飛び込んできます。
最後に紹介するのは、アメリカで発見された恐竜の足跡化石をスケッチしたものです。
これを見て皆さんはどんなストーリーを考えますか?
どうです。楽しいストーリーが思い浮かびましたか?
実際には、誰もこの現場を見た人がいないのですから、どのストーリーが正しくて、どれが間違いだということは判定できませんから、色々なストーリーが生まれて当然なのです。
このように自然というものは、素通りしただけでは何も語りかけてくれませんが、少し立ち止まってみると色々なことが見えてくるのです。だから、少し立ち止まって「ジーと見る」、「探してみる」、「触ってみる」といったことをしてみましょう。そしてその時、皆さんが「おもしろいな」と感じたならば、皆さんが自然からのメッセージを受け取った瞬間であり、感性が通じ合った瞬間でもあります。
この自然の不思議さに目を見張る気持ちを「センス・オブ・ワンダー」といい、こうした体験を多く持つことで、皆さんと自然とのよい関わりが生まれてくるはずです。

実習 「曼荼羅を作ろう」

今日、皆さんに取り組んでもらうのは「曼荼羅(マンダラ)」作りです。
「曼荼羅」というのは、佛教の世界観を表すものですが、その意味については抜きにして、皆さんがこの1年間で撮影した写真をもとに何かのつながりを持ってまとめてみようという取り組みです。
ですが、実際にはどのような「曼荼羅」があるのかを、実習に入る前に少しばかり紹介したいと思います。
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このように「曼荼羅」というのは、本来は仏様の姿を書いてその世界を表していましたが、絵画的なものや色彩の変化だけで表現したものなどさまざまな形のものがあります。
最初にもいいましたが、皆さんに作ってほしいといっている「曼荼羅」は、このような形にまとめるというわけではありません。何となく「曼荼羅」のイメージをつかんでほしいと思い見てもらっただけです。
そこで、どのようにしたらいいかということで、ここに来ているTAの諸君に見本を作ってきてもらいましたから、自己紹介とともに、それぞれの「曼荼羅」を披露してもらいたいと思います。
帝京科学大学からのTA
斉藤さん
中島さん
岐阜県立森林文化アカデミーからのTA
四季曼荼羅を紹介する新津さん
花曼荼羅を紹介する西岡さん
パレット曼荼羅を紹介する澤田さん
さて、「曼荼羅」の説明も終わりましたので、これから皆さんの「曼荼羅」を作ってもらいます。
テーブルの上には皆さんが撮影した写真が各班20枚ずつ用意されていますね。本当はもっとたくさんの写真があた中から選び抜いた写真だと思いますが、作業の進み具合によっては別の写真の方が良いというのも出てくると思いますから、その時は向こう側に用意されているパソコンを使って印刷して追加してもかまいません。
また、見本にあったように色紙や糸を使ったり、枝や葉っぱを利用したいと思う人は、こちらのテーブルに用意してありますので自由に使ってください。
それでは早速始めましょうか。
TAの皆さんのアドバイスを受けながら、まずは写真選びからスタートしました。
全体を見てもイメージできないなら切ってみよう
糸を使って何かはじめ出しました
早速コンピュータで写真探しを始める班が出てきました。
「どの写真を使おうか?」
「この写真なんか良いんじゃない。」
「私はこっちの写真がいいと思う。」
生徒一人一人に、思い入れがあるようです。
こちらでは葉っぱを選んでいます
糸を使い始めはした
それぞれのグループで、少しずつ「曼荼羅」の形になってきました。
細部にこだわりが・・・
先輩からの指示が飛ぶ
こちらではコメント書きをしています
最後の仕上げに奮闘中です
予定の時間が近づいています
各班の仕上げを急いでください

作品発表

時間になりました。
それぞれの班を見て回りましたが、どの班も1枚は「曼荼羅」を完成しているみたいですね。
これからできあがった「曼荼羅」をみんなの前で発表してもらいましょう。
ただし、時間があまりありませんから、「曼荼羅」について書いてもらった説明文を読んでもらうだけに止めたいと思います。
それでは1班からお願いします。
光の曼荼羅
曼荼羅
いろいろ
ハンド・オブ・ジ・アース
農作業曼荼羅
木の実曼荼羅

講評

皆さん、「曼荼羅」作りと発表ご苦労様でした。
それぞれの班が、いろいろ工夫した「曼荼羅」ができあがったのではないかと思います。
この時間は、皆さんの1年間の活動を振り返ることで、皆さんの活動を意味のあるものにして、これから行われる発表会につなげるという意味があります。
今日行った「曼荼羅」作りで感じたことを一つの切り口として、1年間の活動をまとめてみるのもおもしろいのではないでしょうか?
時間になりましたので、私からの話はこれでおしまいにしたいと思います。

閉講挨拶

最後に、今日ご指導いただいた帝京科学大学の小林先生と同行されたTAの皆さんへ、生徒代表からお礼の言葉を述べて、この日の講習会の閉講式としました。

この活動にご協力を頂きました皆様、本当にありがとうございました!

本校の総合学習「ふるさと敦賀塾」の運営にあたっては、各方面の皆様の多大なる御支援の賜で、着々と成果を上げつつ進行して参りましたことは、これまでも報告したとおりです。
この場を借りて、活動に御支援賜った方々に深く御礼申し上げます。
さて、今回の活動にも大きな御支援を頂戴しましたので、少しだけ紹介します。今年度も観察会でお世話になっている「中池見・人と自然のふれあいの里」から、中池見でとれたお米30㎏を頂戴しました。まず、この場をお借りして、御礼申し上げます。
さて、頂いたお米ですが、昨年度に引き続き、中学部父母師会(本校のPTAをこう呼びます)の役員さんと有志の方(合計7名)の協力を頂き、カレーを作って頂きました。できあがったカレーは、学習会の指導をしていただいた小林先生とTAの方と学習会が済んでお腹を空かせた中学生達みんなで、お腹がいっぱいになるまで食べました。
父母師会の皆さん、本当にありがとうございました。

余談をもう一つ

今回の講師をお願いした小林先生がお勤めの帝京科学大学と本校は距離が離れており、直接相談させていただく機会もなかなか持てません。そこで、小林先生とは、メールなどを通して打ち合わせを重ねてきました。と言っても、十分な打ち合わせができるわけでもなく、前日(28日)市内のホテルで待ち合わせして、打ち合わせを行いました。
今年は予定通り午後5時に到着され、ホテルに入られた小林先生と同行されたTAの皆さんと、教材となる写真を広げて実習の打ち合わせを始めました。とはいえ、実習についての議論は尽きず、どうしたらうまく「曼荼羅」を仕上げるか工夫されていました。
気がつくと8時前、「腹が減っては戦はできぬ」というわけで遅めの夕食をとったのですが、やはり気になるのは明日のこと。チョットしたおつまみを買ってホテルに戻り、夜遅くまで話し合いは続きました。楽しい学習会の裏では、小林先生をはじめTAの皆さんの、こうしたご苦労があったのです。
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